隣の芝生はいつも青い
2006年 09月 19日
ある実業家からそう諭されたのは私が20歳台の後半だった。
実業の世界に入るチャンスは10歳台の後半にもあった。体が丈夫で声が大きく、よく動ける現場型の私はバイト先で重宝がられ、「うちで店長にならないか」みたいにしょっちゅう声をかけられた。
マスコミの仕事は派手に見えるが端の人が思うほど稼げはしない。
タダでも出たい、有名になりたい人が山ほどいて完全な買い手市場だからだ。
例えばテレビ出演。プロダクションに入ればプロダクション・ギャラがでる。
しかし、単発フリーは文化人ギャラだ。
美容院に行き、こましな服を用意すれば赤字であることも珍しくない。
帯でレギュラーでも獲得しない限り、テレビで稼ぐなんてそうそうできることではない。
週刊誌、月刊誌はライターはページ幾らでライターフィーがでる。しかし、コメントする「先生」はコメント料。せいぜい貰って2万円というのが相場。
私はコメントだけの仕事はよほど相手側が信頼の置ける媒体でない限り、なるべく請けない。
ゲラも見せてもらえる条件でないと株、経済の場合、間違った情報で読者にご迷惑をかけることもあるからだ。それが分らないレベルのマスコミとは付き合わないに越したことはない。
何時間もインタビューを受け、撮影が伴う場合は美容院にも行き、「何が分らないかがわからない」レベルであることが多いライター相手にしゃべる。
分るようにしゃべったつもりでも、校正ゲラがあがって、びっくり!
「こんなの私の名前で出されちゃ困るわ!読者に不誠実!」というあまりな内容。うそ八百! 汗がどっとでるくらいひどい原稿もある。
どうしようもない原稿の場合、徹夜してでも短時間に全面的に書きなおす。それでも先生フィーはページ監修料が出て1万円程度。ライターはページ3万5000円であってもだ。
講演料。これもピンキリだ。私はあまりにひどい条件のものは断る。聞いたこともないスポンサー。ビジネスモデルとしてあまりに企画者側に偏向が見られるもの。そんな講演に私の名前に興味を持ってきてくださったお客様こそお気の毒。そんなお粗末な企画なら実現しないほうがマシだ。とほうもない遠路。過酷な条件。安すぎの講師料。そうまでして引き受けたくない。
私は「聞きたい講師ランキング」を何社かでリサーチする。自腹で20万円も出せば民間調査機関で全国的にサンプルが取れる。それを示してあまりに安値である場合は交渉したり、場合によってはお引き受けしない(ただし、それが公的機関の有意義な企画のものなら話は別だ)。
しかし、そうまでしても、そんなにやすやすと稼げはしない。
ここでも「私、タレントの××さんと一緒に出られるなら、タダでも講師やります。でも対外的には30万円だったことにしておいてね」と内緒で引き受けるデフレ講師が足を引っ張るからだ。
そしてアンケート結果。講演の後、どの講師でもアンケートが取られる。もちろん、お客様から「良かった!」と評価をいただくことがスポンサー満足、企画者満足になる。
ただし、主催者をさしおいてあまりに満足度が高いと「主役を食われる」と敬遠される。
単行本。ベストセラーを出せば別だ。しかし、これも2~3刷りあたりからアマゾン・ユーズドとの闘いになる。ユーズドで流通している分はびた一文も著作料には反映しない。
ベストセラーを出せない限り、命を削って原稿を書いて、時給換算で一体幾らだろうか?
たぶん、人が驚く額ではないかと思う。
それでもマスコミベースで仕事をするにはわけがある。
いずれ、違うかたちでお客さまに接することになると思うが今は一人でも多くの方に仕事を通じて「ひとり情報ベンダー」としての質を磨きたい。
時節が来たら、別の形で「役に立つ仕組み」を仕掛ける仕事がしたい。
今はお客さまに育ててもらっている最中なので、稼ぎは二の次というわけだ。
マスコミで仕事している人イコール稼いでいる人と思い込んでこの世界に入ろうと思っている人がいるなら私も冒頭の実業家のように「実業のほうがよほど稼げるよ、稼ぎが目的ならおやめなさい」とアドバイスする。
資格を一杯取った高学歴なシニアが「いいなあ、稼げて」ともしも思っているようなら、「楽に稼げる商売なんてこの世にありはしませんぜ。いつでも代わってさしあげましょう。 3日といわず、3年といわず」と申し上げたい。
私の仕事部屋の電気が消えるのは球が切れたときだけだ。
隣の芝生はいつでも青い。
by yoshi-aki2006 | 2006-09-19 10:24 | ビジネス | Comments(2)